消防採用試験において一般的に有利とされる資格には
防火管理者・危険物取扱者・毒劇物取扱者・消防設備士などが挙げられますが、その中でも最たる強みを持つ資格に救急救命士という資格(免許)があります
救急救命士の資格を取得するには基本的に3年制(2年制もあり)の救急救命士学科の専門学校を卒業し、国家試験に合格する必要があります。その取得にかかる費用や時間は他の資格に比べ圧倒的に高く・長くつくため採用試験でも大きなアドバンテージとなる期待が持てます
では救急救命士の資格を持つと100%消防に採用されるのでしょうか?
今回はそんな救急救命士資格を持つ人達の採用事情について書いていきたいと思います。
現状は最強の資格か
救急救命士の資格を持つ人(以下、救命士資格ホルダー)は採用試験において救急救命士枠での受験が一般的だと思います
採用試験では初級・中級・上級と分かれますがそこに特別枠として救命士枠があるという訳です。
そのような受験区分の場合、競争倍率は他の区分に比べかなり有利になると予想されます
つまり救命士資格ホルダーは間違いなく採用試験においては有利になると言えるでしょう
成熟したからこそ生まれた問題
しかし採用100%という訳では決してありません、有利ではあるがやはり毎年競争率は非常に高いのが現状です。
いったい何故このような状況が生まれるのでしょうか?
それは救急救命士という資格の汎用性の無さからきます。
救急救命士という資格は消防職でしかその資格の持つ本来の効力を最大限に発揮することが出来ません。救急救命士の資格の本質的な役割は医師の指示のもと様々な医療行為を医療機関に搬送する途中で行う。という所にありますので現状では救急車以外の場所、例えば医療機関や介護現場などではその資格を生かすことが出来ません
つまり救命士資格ホルダーは消防職に採用される事でしか自ら取得した資格を生かせないということです
私自身1年間に日本全体で何名の救命士資格ホルダーが生まれているのか分かってませんが、間違いなく1年間で消防に採用される救命士の数よりも圧倒的に多いと思います
これは現在潜在救命士問題として医学界でも問題になっている事でもあります
全体の数は3万人から4万人以上いると言われておりその数は年々増加している
受かれば天国、落ちれば地獄
まとめると救急救命士の資格は消防採用試験にはアドバンテージとはなるものの、採用され無い限りほぼ使い道のない残念な資格であると言えます
採用か不採用か、0か100かの極端な結果となりますので費用対効果(取得にかかったお金と時間)を考えるとリスキーな選択肢になりつつあると言えるかもしれません
以下より救急救命士に関する様々な話をざっくばらんに書いていきます、かく言う私も救急救命士なので・・・
救急救命士の過去
救急救命士の歴史は消防の歴史に比べるとまだ浅く、登場したのは平成3年(1991年)
当時は救命士の数が圧倒的に足りなかったため国家試験が年2回だったり、看護師の資格があれば救命士の受験資格付与(取得ではない)があったりと現在よりも大分雰囲気が違っていました
現場の救急車に高規格救急車が入り始めその運用のために最低でも1名の救命士が同乗しなければならないためです
後述しますが消防が自前で救命士を養成するためには多額の費用がかかるため、専門学校で資格を取得した人を採用した方がコスト面の負担が少なくなり現在よりも救命士資格ホルダーの採用はかなりされやすかった印象があります
しかしこの時代色々と問題が起こりました
当時、救命士資格ホルダーの多くは救急車での勤務を希望しており役所の人事サイドもそれが当たり前だと思ったいたようですが、多くの消防本部特に人員の少ない消防では専任制ではなく兼任制が一般的だったため救急業務以外でも消防業務や予防業務といった仕事もこなさなければなりません
そこで救急業務を専門的に行いたい救命士資格ホルダーと、色んな業務をこなしてほしい組織側とで軋轢があった消防本部は少なくはなかったようです。
上記の問題、実は今でも禍根が残っている消防はあります
消防本部により様々ですが私が一つ言えることは、救命士資格ホルダーだからといって退職までの間救急業務のみに従事出来るという事は決してありません
どこの消防組織でも必ずその他の業務(消防や救助、日勤)などを経験しなければならず、人事命令によってはほとんど救急業務に携われない無い場合もあります
2種類の救急救命士
救急救命士の資格取得には専門学校卒業後取得するパターンの他に、救急隊員として働いていた消防職員を専門の養成機関に出向させ取得させるというパターンがあります
どちらも同じ国家試験を受験し合格すれば晴れて救命士資格ホルダーとなるのですが、雇用する組織側からするとコスト面で両者には雲泥の差があります
専門学校卒のホルダーは約300万円近い学費を自費で払っているので採用した場合の組織側のコストはゼロとなります。
対して自前で救命士を要請する場合様々なコストがかかります
養成を受ける職員にも細かい条件がありますがその話は置いておいて、救急救命士でない救急隊員を救命士として養成機関に出向させると大体どのくらいの費用が掛かるでしょうか
大都市の消防組織の場合は自前で養成機関を持ちますが、ほとんどの消防本部は出向という形で送り出しますのでまずその費用がかかります
養成機関での研修は約6ヵ月間なので住居費用とその間の給与ももちろん発生します(たしか生活費名目の手当支給もあったはず)
また現場ではその職員が抜けた穴は欠員となり充足しなければなりません、私のいた消防ではそこに非番や週休の職員を充てて対応してましたので当然その職員への残業代・時間外手当も発生します
正確な費用は分かりませんが、救命士の受験資格を取るために6ヵ月職員を派遣しただけで数百万単位の金額が消防予算から計上されると思われます
そのため予算の少ない消防・自治体では現職の職員を救急救命士に養成することが難しく、それよりも救命士資格ホルダーを採用した方がコストを抑えられるという訳です
医療資格のヒエラルヒーでいえば救命士の方が上なのですが、経験や階級としては救急隊員の方が上なので上司によってはツライ経験をした新人救命士がいました
潜在救命士の現在
救命士資格ホルダーとなり消防採用試験を受け続ける人は多いと思いますが、その全ての人が報われるとは限りません
いえ、現実問題として全てのホルダーが採用はされないと断言しておきます。必ず毎年何名ものホルダーが公務員採用試験の年齢制限のため試験自体を諦めなければなりません
ではそうなった場合には救急救命士としての仕事は出来ないのでしょうか?
答えはその通り、出来ません。
上述したように救急救命士としての本質的な仕事は現状では救急車での医師の指示下での医療行為となります
救急救命士法が変わり医療サイド(主に病院)が変われば働き場所も増える可能性はありますが
今の状況では消防に採用されない限りその本質的な仕事は出来ないと考えるべきです
消防以外での採用に医療機関が挙げられますが、実態としては救急救命士としての医療行為はもちろんですが血圧測定や体温測定といった補助行為も認めない機関があります
つまり誰でもいい仕事を任される訳ですが雇ってくれているだけ有難いという意識があるのでホルダー側も組織に対し意見要望を出しづらい一面があります
雇用形態もアルバイトや契約社員がほとんどで正社員登用はやはり難しく、潜在救命士の消防職以外での就職にはどこも厳しい状況があるといえます
潜在救命士の問題については私自身が現在そうですので今後も記事にしていきたいと思います
採用合格は狭き門だがやるしかない
救命士法が制定された直後は大量に必要とされていた救急救命士もその10数年後にはやや飽和状態となり、以降はなかなか採用枠の少ない状態が続いていました
ですが現在、定年退職する救急救命士や年齢から体力的に救急業務が続けられない救命士も出始め一時期の最悪の状況よりは採用状況としてまだマシにはなっているのかな・・・・と私個人的には考えます
しかし潜在救命士の数は毎年ドンドン増えており、これから救急救命士の資格を取るために専門学校への進学を考えている方や親御さんは後に控えている公務員採用試験という大きな難関があることを心しておかねばなりません
ただその前に救急救命士国家試験の合格率は約85%なのでまずはそこを合格することが最重要ですけどね
未来の救急救命士の皆さん、頑張って下さい!